お知らせ

JCR格付推移マトリックスおよび累積デフォルト率
2011.02.18
株式会社日本格付研究所(JCR)では、格付推移マトリックスおよび累積デフォルト率を例年公表している。2010年の格付を反映した内容は、以下の通りとなった。


1.企業格付推移マトリックス(表1~3参照)

(1) デフォルトの定義
デフォルトとは、債務不履行に陥っている状態にあるもので、格付対象債務の元利金が当初約定通りに履行されない状態のものを指す。これには債務者について、破産、会社更生、民事再生、特別清算、旧商法に基づく会社整理といった法的手続きが申し立てられるなど、元利金支払が当初約定通りに履行されることが不可能と判断される状況も含む。

(2) 対象格付データ
00年1月から10年12月までの11年間に公表した居住者長期格付のうち、以下の格付データを除いたものを対象とした。
① 保証付きの格付
② 劣後債券の格付
③ p格付※
※p格付とは依頼に基づかず主として公開情報に基づく格付であるが、「保険金支払能力」に対する格付のように、当初本格付を付与した後、最終的に「Dp」とp格付したものは集計の対象とした。

なお、格付データは各格付対象企業の月末時点の格付を使用した。「D」または「Dp」になった企業名は表4の通り。

(3) 作成方法
上記対象格付データについて10年間の各月末ごとに、その開始時点の格付を縦軸(列)に、また1年後(3年後、5年後)の格付を横軸(行)にとったマトリックス形式の頻度分布表を作成する。例えば、00年1月末時点の格付に対応する同一銘柄の01年(03年、05年)1月末の格付を比較する、00年2月末時点の格付に対応する同一銘柄の01年(03年、05年)2月末の格付を比較するなどして、その格付推移を集計する。
次にこうして作成したすべての表(10年×12ヶ月)のデータを、各表の同じ場所のセルを単純加算した上で、各行ごとのデータ総数で除して、表1~3のように百分比の形で表した。

(4) 格付推移マトリックスの読み方と利用例
格付は、年1回、または信用力に影響するイベント発生時に見直しが行われ、その時点における発行体の信用力に応じて格付の引き上げ、維持または引き下げのいずれかの措置がとられる。
格付推移マトリックスとは、現在の格付がn年後(例えば表1~3のように1年、3年、5年後)にどのような格付に変化するのかを過去の格付データを用いて、確率的な形式(百分比の形)で表したものである。
このようにn年後の格付変化について作成された格付推移マトリックスは、JCRの過去11年間の格付実績を用いているため、モデルなどによる推定値と異なり実績に忠実な数値が得られるとともに、一時的・突発的な事象にとらわれない安定的な格付推移を示すことができるメリットがある。
すなわち低格付であるほど、同じ格付にとどまらずに1年後に格上げ、または格下げされる確率が高いこと、従って格付の相対的に低い企業の信用力は格付の高い企業の信用力より安定性に欠けることがわかる。
こうした読み方をすることにより投資家が保有している債券などについて、どの程度格付の変化するリスクにさらされているかを知ることができる。
また、格付推移マトリックスを利用することによって、現時点での格付から将来の格付を推定することが可能となる。
例えばマルコフ連鎖を仮定すれば、格付推移マトリックスを行列の乗法公式に基づいて1年後の格付推移マトリックスをn回掛けることにより、n年後における擬似的な格付推移マトリックスを得ることができる。このようにして作成したn年後の擬似的な格付推移マトリックスを読むことにより、n年後の格付の変化を推定することもできる。


2.企業格付を対象とした格付カテゴリー別累積デフォルト率(表5参照)
JCR格付の妥当性を客観的に検証するために、企業格付を対象とした1年、3年、5年の格付カテゴリー別累積デフォルト率を前述「1.企業格付推移マトリックス」の実績データ(期間:00年1月から10年12月)に基づいて集計すると、表5の通りとなる。


3.広義デフォルトに基づく格付カテゴリー別3年累積デフォルト率(表6参照)
広義のデフォルト定義に基づく累積デフォルト率は以下の通りとなった。

(1) 広義デフォルトとは
JCRが格付を行った企業で、本文中の表4に示すデフォルト企業に、主力銀行などによる債権の放棄や債務の株式化などを行った企業もデフォルト企業として追加し、広義デフォルトとした。
なお格付消滅先は、広義デフォルト率の算出において、デフォルトした先を分子・分母に含めるとともに、デフォルトしなかった先を分母に含めて算出した。

(2) 作成方法
10年基準の3年累積広義デフォルト率(過去10年間平均)を例にとると、98年から09年までの各年12月末時点の各格付カテゴリーについて、1年目、2年目、3年目に広義デフォルトになった企業をカウントし、1年目、2年目、3年目のデフォルト率の計算を行い、対象期間における1年目、2年目、3年目の当初企業数で加重平均した。こうして計算した1年目、2年目、3年目のデフォルト率に基づき、限界デフォルト率を累積する方法※により累積デフォルト率を算出した。


4.証券化商品(ABS)の格付推移マトリックス
証券化商品(ABS)の「経過月別の格付推移」と、直近3年間のデータを対象とする「1年間(暦年ベース)の格付推移」は以下の通りとなった。

(1) 対象格付データ
調査対象は、96年11月から10年12月までに格付を公表した案件のうち、原則として裏付資産について優先劣後構造で信用補完された案件とした。
なお、リパッケージ債や保証付案件など第三者の格付に連動するものは除いた。
また、複数のトランシェに分かれている案件については、償還期日が分かれていても同順位の場合はまとめて1件とカウントした。

(2) 作成方法
① 経過月別格付推移マトリックス(表7~9参照)
対象案件が発行時から経過月数に応じてどのように変化したか、調査集計した。その上で12ヶ月、24ヶ月、36ヶ月経過した時点において各案件が当初格付からどの様に変化したか、その分布状況を表示した。各経過月数を満たさずに償還された案件や格付の変化があっても経過月数を満たさないものはカウントをしていない。

② 1年間(暦年ベース)の格付推移マトリックス(表10および表11参照)
上記(1)対象格付データのうち、08年から10年に関して、各年1月1日時点の格付が年末にどのように変化したかを調査し、3年分の件数を合算し平均した格付推移分布状況を表示した。また、参考までに10年の1年間について、その分布状況を表示した。

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