お知らせ

ハイブリッド証券の格付けについて
2006.09.01
株式会社日本格付研究所(JCR)は、このたび、優先株を含むハイブリッド証券の格付けの基本的な目安をまとめましました。
なお、JCRではこれまでも銀行の劣後債や生命保険相互会社の基金といったハイブリッド証券の格付けを行っていますが、今回の格付けの目安の発表に伴う現行の劣後債・基金の個別格付けの変更はありません。
JCRでは、ハイブリッド証券の資本性の評価(発行体の信用力に与える影響)についての考え方も、同時にとりまとめました。これについては本件と同時発表のプレスリリース06-D-415をご覧ください。

1.格付記号とその運用
ハイブリッド証券そのものに格付けを行う場合、格付けの記号には、債券の長期格付けの記号を準用する。ただ、記号が表す内容は、通常の債券格付けの場合は「債務履行の確実性」であるのに対し、ハイブリッド証券格付けの場合は「期日における利息・配当および元本の支払いの確実性」となる。
繰延条項という当初の契約に基づいて利息・配当等が繰り延べられても、通常は当該証券の「デフォルト(債務不履行)」にはあたらない。しかし、利息・配当等の期日どおりの支払いを重視する投資家のニーズがあることから、今後はハイブリッド証券格付けにおいては、このような繰り延べが行われた場合にも「D」の格付記号を付与することとし、このような状態までの距離を、格付記号を用いて表すこととする。
なお、繰延条項に基づき利息・配当等の繰り延べが行われても、通常はデフォルトにはあたらないため、繰り延べ自体をもって長期優先債務格付けを「D」とすることはしない。もっとも、繰延条項なしの期限付劣後債の元利の不払い、繰延条項付きであっても条項の定める繰延事由が発生する前の利息・配当等の不払いなどはデフォルトであり、長期優先債務格付けも「D」とする。

2.ハイブリッド証券の格付けの目安
ハイブリッド証券の格付けにおいては、(i)一般債務よりも発行体破綻時の請求権順位が劣後しており、回収可能性が低いこと(劣後性)、(ii)繰延条項に基づき利息・配当等が繰り延べられる可能性が、債務のデフォルトに陥る可能性よりも通常高いこと(繰り延べの可能性)に注目し、これらのリスクを、長期優先債務格付け(債務者の包括的な債務履行能力を評価した格付けで、債務の契約内容、債務間の優先劣後関係、回収可能性の程度は考慮していない)より低く格付けすることで織り込む。
ハイブリッド証券格付けの、長期優先債務格付けからのノッチ差の目安としては、劣後条項付き・繰延条項なしの証券については、原則1ノッチ以上、劣後条項付き・繰延条項付きの証券については原則2ノッチ以上とすることとする。長期優先債務格付けが「BBB」レンジ以上で、繰延事由抵触の可能性が低いと判断される場合には、劣後条項付き・繰延条項なしの証券で通常1ノッチ、劣後条項付き・繰延条項付きで通常2ノッチとする。
劣後条項付き・繰延条項付きの証券でも、繰延事由が比較的緩やかに(抵触しにくく)規定されていたり、繰り延べあるいは繰延事由への抵触自体が発行体の事業運営に大きな支障もたらすと予想され、発行体がそのような事態を回避する傾向が非常に強いと判断されたりする場合には、ノッチ差を1にとどめることもある。財務力が良好で金融システムにおけるプレゼンスも大きい銀行が、自己資本比率8%割れを繰延事由とする短期劣後債(Tier3債)を発行する場合がその典型と言えよう。
破綻の蓋然性が高まり長期優先債務格付けが低位になるとともに、請求権順位やバランスシートの分析などから上記証券との回収可能性の差が明らかに拡大しているとみられる場合には、劣後性の評価に基づきノッチ差を広げることとなる。
また、繰延条項付証券について繰り延べの可能性が高まれば、長期優先債務格付けとのノッチ差は上記の目安より広がることになる。繰延事由が非常に厳格に(抵触しやすく)規定されているケース、財務内容が悪化し繰延事由に抵触しそうな一方で当該証券以外の一般債務については親会社の支援により債務履行の確実性が極めて高いとみられるケースなど、繰延条項に基づく繰り延べの蓋然性がデフォルトの蓋然性に比べて大きい場合に、ノッチ差は拡大しやすいであろう。

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