お知らせ

持株会社の格付方法
2015.01.23
(最終更新日:2015年1月26日)

本格付方法は、国内の事業法人を中核とするグループおよび金融法人を中核とするグループの純粋持株会社等を対象としている。海外の事業法人および金融法人を中核とするグループの純粋持株会社等については、所在地の法・会計制度などを踏まえ、必要な調整を加えるなどしたうえで、本格付方法を準用する。
本格付方法は従来から公表している持株会社の格付方法である「銀行持株会社および子銀行の格付けについて(01年3月15日公表)」、「国内事業法人・純粋持株会社に対する格付けの視点(03年7月1日公表)」および「保険持株会社および傘下子会社の格付け(05年5月31日公表)」を補足するものである。

1. 事業法人を中核とするグループの持株会社の格付方法
(1) 評価の基点
持株会社の格付は、持株会社が属するグループ全体の信用力(グループ信用力)の評価を基点に行う。グループ信用力は基本的にはグループの連結ベースの財務基盤および事業基盤などを分析対象とするが、グループの実態に合わせて連結ベースのデータに調整を行う場合もある。
なお、持株会社の子会社の格付についてもグループ信用力の評価を基点に行う。その上で、当該会社のグループ内での位置付けなどの評価を織り込み、子会社の格付をグループ信用力の水準と同一にするかまたはどの程度の下方のノッチ差を設けるか決定する。一般的に子会社の格付はグループ信用力がシーリングとなるが、例外的に子会社の格付がグループ信用力を超えるケースもある。

(2) 発行体格付の検討
事業法人を中核とするグループの持株会社に発行体格付を付与する際、JCRでは当該グループ全体のキャッシュフロー創出力と持株会社がグループ会社をコントロールする力(持株会社のグループ支配力)を重視する。これは、グループ全体で潤沢なキャッシュフローを創出しておりかつ持株会社のグループ支配力が強い場合は、持株会社単体の損益・財務に多少の弱みがあっても、子会社のキャッシュフローを持株会社の運営に適時・適切に活用することで持株会社を特段の支障なく運営できると考えられるためである。持株会社のグループ支配力については、①持株会社の設立目的、②子会社への出資比率や人的関係など持株会社の子会社経営への関与状況、③持株会社が子会社に対して有する権限の強さ-などにより判断する。
グループ全体のキャッシュフロー創出力と持株会社のグループ支配力に問題がない場合で、かつ特段の事情がない場合、JCRでは持株会社の発行体格付についてはグループ信用力からのノッチダウンは行わず、グループ信用力と同等とする。一般的に、日本の事業法人を中核とするグループの持株会社はかなり強い支配力を有しており、このような持株会社についてはグループ信用力と同等の格付を付与するケースが多くなるであろう。
また、JCRは持株会社の格付にあたり、持株会社単体のキャッシュフローの状況についても確認を行っている。持株会社は多くの場合自ら事業を営まずキャッシュフロー創出能力が低いうえ、多くの場合子会社株式を除くと保有資産も少額である。そのため持株会社の外部金融負債の返済原資は受入手数料や配当など子会社から受領するキャッシュに依存している。こうした持株会社の特性を踏まえると、持株会社の債権者が子会社の債権者との比較で劣後することが考えられる(持株会社の構造劣後性)。持株会社単体のキャッシュフローを評価することにより、構造劣後性が顕在化する可能性を判断している。
持株会社単体のキャッシュフローの評価にあたっては、キャッシュ・インフローとアウトフローのバランス(キャッシュフロー・バランス)を考慮する。具体的には、①キャッシュ・インフローに占める配当以外の安定的な収入の比率や配当の安定性、②キャッシュ・アウトフローとの比較でみたインフローの十分性-などを確認する。その際、参考指標として、持株会社単体の貸借対照表における子会社株式を自己資本で除した数値であるダブルレバレッジ比率を用いる。ダブルレバレッジとは、持株会社が子会社株式を外部負債により取得し、子会社がさらに外部負債を調達する構造を言い、持株会社の構造劣後性を顕在化させる要因になる。持株会社が外部負債により子会社株式を取得するなどしてダブルレバレッジ比率が高くなっている場合、支払い金利などのキャッシュ・アウトフローを配当以外の安定的なインフローで賄えなくなる可能性が高まると考えられる。
持株会社単体のキャッシュフロー・バランスに大きな問題を抱えている場合は、グループ全体のキャッシュフロー創出力や持株会社のグループ支配力と総合的に判断し、持株会社の発行体格付をグループ信用力からノッチダウンすることもありうる。

(3) 個別債務格付の検討
持株会社と子会社がともに破綻した場合、子会社株式を主要な資産とする持株会社の債権者の回収原資は、持株会社が子会社の株主として受領する清算配当に多くを依存することになる。清算配当は子会社の債権者が優先的に弁済を受けた後の残余財産になるうえ、子会社の純資産に毀損があれば当初の出資額を大きく下回ることもある。そのため、持株会社が子会社の株式を外部負債で調達している場合、持株会社の債権者は十分な回収原資を確保できず、子会社の債権者に劣後することとなる(回収面の構造劣後性)。
持株会社の個別債務格付については、そうした回収面の構造劣後の程度および持株会社と子会社債権者の優先劣後関係などを考慮する。
持株会社の回収面の構造劣後の程度はダブルレバレッジの状況により確認する。ダブルレバレッジ比率が高く回収面の構造劣後性が顕著な場合で、さらにグループ信用力が低位(BBレンジ以下)なものについては持株会社の個別債務格付をグループ信用力からノッチダウンする。
また、持株会社が外部負債により調達した資金を子会社に転貸しているケースにおいて、子会社の債権者が担保を取得するなど優先的に弁済を受ける権利を有していると、持株会社、最終的には持株会社の債権者が子会社債権者に劣後することとなる。そうした場合には必要に応じて持株会社の個別債務格付に反映する。
一方、持株会社は子会社による保証などの信用補完を受けることにより回収面の構造劣後性などをカバーすることができる。こうした信用補完があれば、格付には構造劣後性をノッチダウンとして反映させない。

2. 金融法人を中核とするグループの持株会社の格付方法
金融法人を中核とするグループの持株会社の格付においても、これまで述べた方法に基づき、グループ信用力を基点に、持株会社のグループ支配力や構造劣後の程度を考慮して行う。
銀行、保険会社または証券会社等(金融商品取引業者)を中核とするグループの持株会社(銀行・保険・証券等持株会社)の場合、中核子会社から持株会社への配当が業法の健全性規制などにより制約されることがありえることから、グループの支配力が強くとも場合によっては子会社のキャッシュフローの利用に制約が生じうるという、特有の事情が格付上勘案される。また、長期発行体格付が比較的低い銀行の持株会社については、破綻処理における取扱いが傘下銀行との間で異なりうる点も考慮されることとなる。これは、あるグループに預金保険法などに定められた破綻処理制度が適用される場合、銀行についてはその債権者に有利に働く救済的な措置が講じられる一方で持株会社についてはそのような措置が講じられないという事態が想定されるためである。とりわけグローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)については、現在検討されている総損失吸収力(TLAC)保有義務付けの枠組みなどにより、今後は破綻処理時の損失を持株会社の株主と債権者が重点的に吸収することになるかもしれない。これらの事情を反映し、銀行・保険・証券等持株会社の格付では、構造劣後性を持株会社と子会社とのノッチ差として反映するケースが、事業法人を中核子会社とする持株会社に比べて多くなる。
キャッシュフローにつきインフローとアウトフローのバランスに問題がある銀行・保険・証券等持株会社については、子会社のキャッシュフローの利用にかかる制約があった場合その影響を受けやすい。このため、そのような持株会社についてはグループ支配力が強い場合であっても発行体格付をグループ信用力からノッチダウンすることを検討することになる。他方、キャッシュフローにかかるバランスに問題がない銀行・保険・証券等持株会社については、事業法人の持株会社と同様に、持株会社のグループ支配力の強弱により、発行体格付のグループ信用力からのノッチダウンの必要性を判断する。また、銀行・保険・証券等持株会社の個別債務格付については、事業会社を中核子会社とする持株会社同様、ダブルレバレッジ比率が高く回収面での劣後の度合いが顕著な場合、グループ信用力からノッチダウンを行うことがある。

以上

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